Yuya Nishigaki 西垣 佑哉 環境デザイン
環境デザイン細目修士2年の西垣佑哉さん(にしがき・ゆうや)さんに、お手紙でお話を伺いました。専攻の枠にとらわれない、他分野にわたるインタビューとなっています。
テキストを追いながら、お手紙の画像と合わせてお楽しみください。
よろしくお願いします! 早速ですが、現在は環境デザイン専攻でどのようなことをされているのでしょうか?
ここ最近の制作・研究や興味を持っていることについて教えていただきたいです。風の噂では北海道で制作をしていたと伺ったのですが…
こちらこそよろしくお願いします…
私は京都市芸の大学院に入学するまで、自分が何に関心があるのか不明瞭でしたが、ここ修士2年で明確になりました。1つは「かわいいやかっこいいといった、感性価値というあやふやな存在から導き出す形」について、2つ目は「既存の建築や構造体など、元となる物(オリジナル)を用いて如何に面白いヴァリエーションをつくり、そこから魅惑的な作品が出せるか(引用・サンプリング・音楽におけるカットアップ・形態操作など)」です。どちらもデザインにおける関心ですが、自身の趣味や全体的な関心から影響されたものだと思っています。
そして今修士では2つの研究及び制作を行っていますが、そのどちらにも関心の延長線上にあると思います。
前年度から取り組んでいるのは『既存の椅子の変形における「かわいい」椅子の生成-椅子の部分に着目した検討』、もうひとつは今年度から取り組んでいる「都市のトマソンから作られるキッチュなオブジェ」(仮)です。
2019年度京都市立芸術大学作品展
北海道に関して……環境デザインの設計課題で、立ち飲みカウンター用のテーブルを制作することになりました。また条件としてshopbotという木工用機材で切り出すことを前提として、その機材の特性を上手く活用したデザインが求められていました。shopbotは木工に慣れてない人では作るのが難しい曲線を多用したデザインでも、早く正確に切り出すことが出来る機材です。
これに参加した理由として、デジタル機材を用いるということで、従来の木工デザインからどれだけ可能性が拡がるのか、デジタル機材だからこそ生じる条件(レーザープリンター/インクジェットプリンターで見え方が変わるなど)がどういうものか、という関心もあったためです。
質問に対して広く浅くという感じですが…… よろしくお願いします。
北海道では立ち飲みテーブルを作っていたんですね! 大自然に佇むテーブル…
(少し前の話に戻って)「トマソン」というのは、必要ないのにある建物の構造とか、目的がわからないつくりみたいなものですよね。関心を持つきっかけになった体験などはあるのでしょうか?
実はトマソン自体には強い関心がなく、キッカケも思い出せないです…。
「不自然さ・無駄に過剰なこと・意味が分かりそうで分からないこと」が混在しているのに、魅力的になる現象や物、それらが魅力的に見える理由を考えることが好きだから、トマソンに関心を持ったと思います。
その現象や物を好きになった体験・出会いというならばこの5つで、これらは自分と切り離してはいけない存在でしょう。
・studio velocity「都市にひらいていく家」
・Peter Eisenman「House VI」
・in the blue shirt 「Sensation Of Blueness」
・Sawai shingo「HATRA 2016-17AW/ TYPOGRAPHY DESIGN」
・PUGMENT「Spring 2018(ファッションショー)」
挙げていただいたトピックについて、どれもとても興味深く拝見しました!
これについてもう少し詳しくお話を聞けたらと思います。前のお手紙の5つの例から、どれか1つについて感想・印象に残ったポイントを教えていただけますか…?
建築について書くべきなんでしょうが、あえてin the blue shirtさんの音楽作品について話していこうかなと思います。
私がこの音楽作品に感銘を覚えた点は「何も分からない魅惑」です。
この方が作っている曲の多くはサンプリングを用いています。サンプリングとは(音楽の場合)ある音声を単語以下に切り刻み、並び替え、奇妙な声や音にする方法で、その奇妙さが面白いんです(in the blue shirtさんはこの手法の例としてPerfumeの「ねぇ」を挙げていたと思います)。
しかし彼の曲ではそれをあえて人が歌っているようにしてるのがさらに面白くて、バラバラな音が1つのフレーズに感じるんです。それでも何言ってるのか分からないんです。
音源:https://soundcloud.com/in-the-blue-shirt/send-around
何が言いたいかというと、それまで聞いていた歌詞や曲の展開が「分かりやすい」J-POPより、わざわざバラバラにした声を声っぽくする意味も何かを言っているかも分からない曲の方が魅惑的でした。
「Sensation Of Blueness」には、そんな「分からなさの魅惑」とバラバラな音にはない歌(っぽさ)特有の気持ちよさを純粋に楽しめる良さがあると思います。
これは作品というより作家に対する感想ですが、in the blue shirtさんはサンプリングや参照、引用に強いこだわりを持ち、曲作りにおいて「巨人の肩の上に立つ」ことをモットーとしています。その点において私はクリエイターとしてリスペクトしています。
クリエイターは何かを作る時、何かのイメージや手癖を本、日常の体験などから参照・引用しているはずで、現代ではインターネットがあるため、大量のイメージと情報が手軽に収集できる制作環境にいます。私はそのような大量の履歴から参照してデザインできてしまう現代で、参照や引用することの意味を考えていきたいし、in the blue shirtさんの曲からその意味や価値について教えられているような気がします。
歌詞がありそうで無いので、浮遊感だけで聴ける感じが新鮮でした…
広い意味での引用・参照についてのお話は、他の専攻の分野でも通ずるところがありそうですね。
とても詳しくご説明いただきありがとうございました。
最後に、今年の作品展について、現在の展望をお聞かせください!
手紙のやり取りが何故か新鮮に感じ、文章を⻑考して手で書くという時間そのものを楽しめた気がします。こちらこそありがとうございました。
今年の作品展について・今後の展望について
昨年度の「かわいい椅子」は縮尺が1/3と1/8の模型を展示しました。
今回は住宅の断熱材によく使われるスタイロフォームと、一部を3Dプリンターで作った実寸大のかわいい椅子をメインで制作しています。
私自身木工の訓練を受けていない素人で、ましてや特殊な形の椅子を制作するため、建築学生が慣れ親しんだスタイロで削り出しながら、スタイロで作りにくい箇所を3Dプリンターでカバーすることになりました。
スタイロとプリンターで出力したプラスチックが混ざった椅子を客観的に見ると、デジタル技術を用いて如何に精度を高く形を作れるかという試行錯誤が分かり、その状態が面白いと思いました。その制作プロセスとかわいい椅子のかわいらしさとは何か、その両方の魅力を上手く展示で伝えれば、と思います。