Takumi Yokoyama 横山 拓実 プロダクトデザイン
プロダクトデザイン細目修士2年の横山拓実(よこやま・たくみ)さんにお手紙でお話を伺いました。
今回はテキスト部分を中心に、手紙の筆致も交えながらお届けします。
現在横山さんはどのようなことをされているのでしょうか? 10月に小ギャラリー(京都芸大構内)で行っていた展示についても詳しくお聞きしたいです!
私が研究テーマにしているのは、「人が物を使うときに意識していないことについて」です。
「物を使う」というのは一見するとまったく意識的な行為のように思えますが、たとえば本棚という道具を考えてみると、「意識的でない使用」というものがあることもよく分かります。「本棚を使う」というのは、意識して本を並べるときよりもむしろ、本棚に意識を向けていない時間のほうが重要であるように思われます。
そんなふうに、人が物を使うときに「能動的にやっているとは言いにくい部分」に注目するのが、私の研究テーマです。
では、私がどんなものを作っているのかというと、
実は私は、たぶんプロダクトデザイン専攻でいちばん「プロダクト」を作っていない学生です。
これまでは映像を作ったり、写真を使った作品を作ったりしてきました。
ことしの10月には、大学の小ギャラリーで展示を行いました。
展示のキーワードにしていたのは、「姿勢」という言葉です。
たとえば正座という姿勢は、見方を変えれば、自分の脚の上に座っていると考えることもできます。そう考えると、椅子に座るというのは、自分と椅子が一体になって姿勢を作る行為だといえるかもしれません。
「物と姿勢をつくる」/ 京都市立芸術大学小ギャラリー / 2020年10月21日(水)〜10月23日(金)
そういえば、芳名帳にも作品を仕込みました。芳名帳のボールペンの、中のばねを抜いておいて、うまくボールペンで書けないようにしておいたのです。
するとどうなるでしょうか。
芳名帳に名前を書こうとした人は、そのままではうまく字が書けないので、どうにか努力する必要があります。
利き手と反対の手でペンのおしりを押さえた人もいましたし、「ちょうどいい角度」を探して書こうとする人もいました。
そうやって、物と自分がいっしょになって「新しい姿勢」を作ってもらうための工夫なのでした。
…最初のお返事はこんな感じでOKでしょうか?
野村さんのお返事をお待ちしています!
私も芳名帳チャレンジしました! なかなか普段はできない体験でした…
この小ギャラリーの展示はいつから準備を進めていたのでしょうか?
また、大学に自由に通えなかった今年の春ごろはどんな風に制作・研究を行っていたのかについてもお聞かせください。
実はもともとは今年の4月に小ギャラリーを使う予定だったんですが、感染症の流行を受けて中止になってしまったんです。
だから、半年以上前から小ギャラリーを使うことは決まっていたんですね。
ただし半年の間に、展示の内容はまったく変わりました。
この前期の間、改めて自分の研究テーマや、興味の対象というものを考え直してみていました。
こんな混乱のさなかですから、多少収集がつかなくなってもいいや、という気持ちで、作品と呼べるかわからないような試作や工作を重ねて、自分が本当に興味があるものを確めようとしていた前期でした。そのような断片的な思索を経て、春のころには考えていなかったことが少しずつ固まっていきました。そうしてできたのが10月の展示です。
というわけでお答えしますと、小ギャラリーの展示を準備していたのは、実際は9-10月のひと月半ほどで、家と学校で毎日「わかんね〜〜」と転げ回っていたらできました。
それから去年の春ごろは、家で毎日「わかんね〜〜〜」と転げ回っていました。
「わかんね〜〜」と転げ回る日々を経て今があるのですね…
横山さんの関心としてある「物」という対象はすごく幅が広いですよね。
何かきっかけとなる「物」との出会いや、印象に残った「物」は例えばどんなものがあるんでしょうか?
「物」全般に関心がある、というのは言われてみれば たしかに、と思います。
自分でも「人が物を使う場面に興味がある」と言い表していますが、ここで「道具」という言葉を使わないのは、たとえば壁や地面といった地形や、自然物や、あるいは身体など、「道具」とは呼びにくいものを使う場面にも興味があるからです。
じゃあこういう関心がいつからあるのかというと、大学に入ってから少しずつ育ってきたのだと思います。1年生のころは自分はビジュアルデザインに進むのだと思っていましたから、道具のことなんて深く考えたことがなかったんですね。
でも、大学での課題を通じて、少しずつ自分の興味がわかってきました。今もことあるごとに思い出すのは、深澤直人という製品デザイナーの言葉です。
著書の中で彼は、「もし傘を手に持っていて、でも傘立てがなくて、床にタイルが敷かれていたら、そのタイルの数ミリの溝に傘の先をあてて、傘を壁にたてかけるということが誰でも無意識にできるだろう」ということを言っていました(要約ですが)。
深澤はさらに、傘立てをデザインする代わりに玄関の壁際に数ミリの太さの溝を引けばそれが「傘立て」になるだろうとも言っていました。
この話を聞いたとき、はっとする気持ちになりました。
そしてそのような観点であれば、私も道具のデザインに興味があるかもしれないと思ったのでした。
というわけで、私の研究の根っこにあるのは「傘」なのかもしれません。
確かに、私も良い感じの溝があったら傘を立てかけてしまいそうです…
傘にまつわる深澤氏の論考は、まさに横山さんの制作・研究に繋がっていますね。
最後の質問になりますが、今年度の作品展についてお伺いしたいです!
実は今もあれこれ試しているところで。どんな内容になるか、私にも分かっていません。「わかんね〜」って転げ回っています。
でも、ひとつ決まっているのは、
「今までにしたことがない頭の使い方」や「身体の使い方」を体験してもらいたい、ということです。
そうやって新鮮な気持ちで自分のしているふるまいと向き合ってもらうことで、あたりまえのことの中にあるふしぎさ、面白さというものに気づいてもらえたら… と思っています。
今年の作品展、どうなるんでしょうね。何かが変わるのでしょうか。
もしかすると、普段よりもいくぶんかゆったりした感覚で作品が配置されて、1人あたりのスペースが広くなったりするんでしょうか。もしそうだったら、作品がスペースの広さに負けないように、作品のパワーをもっと上げなければ…! と思っています。