Kyoto City University Of Art annual exhibition 2020

Maiko Suzuki 鈴木真衣子 版画

今回は、版画細目修士2年生の鈴木真衣子(すずき・まいこ)さんとのお話の記録をお届けします。2020年10月20日〜25日に開催された鈴木さんの個展「集団の分断」の会場 KUNST ARZTにて、感染対策に留意し、対面でのインタビューを行いました。

作品について

現在制作している作品について説明をお願いします。

メインは木版画で、みんなが一度は見たことあるものやイメージしやすいものを普段と違う風に分解したり分断したりすることで、当たり前だと思ってたものの違う見方に気づいてもらう、そして自分も作りながら気づいていくことを意識して制作しています。

このおもしろ消しゴム(株式会社イワコー製作のさまざまなモチーフを模した消しゴム)が発想のきっかけになっています。
小さい頃から好きだったんですけど、2年くらい前にトラの消しゴム(画像)を買って分解したら、黒いしましまの部分が全部中で繋がってて、「まさかこうなるとは…」と思ったんです。

その時に、普段「これはこういうものや」って思っている固定観念を一瞬にして覆されるような感じがあって、例えば女性はこういうものである、というような常識みたいなものを分解を通じて疑っていきたいなと思いました。

版画という技法自体にも分解したものをはめていく、という側面があるように思います。

それはまさにそうですね。
色ごとに版が分けられてて、出っ張ってるところが最終的に露出して絵になるところがおもしろ消しゴムと版画、特に木版画との間で似ていると思っています。それを意識して木版を選んだわけじゃないんですけど、惹かれるものがあったのかなと。

作品制作の過程について

Instagramにあった、お味噌汁の分断を複数パターン考えていたメモがすごく印象的でした。分断については都度どのような試行錯誤をしているんですか?

分断の方法は、コンセプトというよりも見た目的に面白さがわかりやすく、かつ綺麗に見えるような感じを選んでます。
例えばこのマッチ棒の作品だったら、
「マッチ箱を地面と平行に切ったとしても普段見てるマッチ箱とそこまで変わらないからインパクトがないな。じゃあ地面と垂直に切ろう。やっぱりマッチの赤い部分が切れてた方がいいし、棒の部分が束になって切れてても面白いかも」とか考えてこの凸っとした切り方を選びましたね。
ほんまに切っても、こんな風に切れるとは限らないので、そこはかなり演出しています。

実は演出されたファンタジーなものなのに、図の精巧さから「マッチ箱って切れたらこうなんや」って思ってしまうような説得力を感じます。断面が凸凹になっていることでスポッとはまる感じもより強くなっていますね。

やっぱりただ真っ直ぐ切るだけでは、はまる感じじゃなくなるので。元の形に戻す動作の想像を促すことを意識しています。

《マッチ》 油性木版、鳥の子紙 2020年

2020年前期について

今年は3〜6月くらいには学校へ入れなかったりだとか、家にいることを推奨される時間が長かったと思うんですが、制作自体に影響はありましたか?

ありましたね。6月くらいから大学に入れるようになった時には、版木を持って帰って家で小さい作品の彫りをしたんですが、それまでは版画ゼロ状態でした。
その時に家ですることないなと思って、消しゴムのスケッチを初めました。もともと好きで観察はしてたんですが、描いてまとめたのは初めてで、仕組みについて理解が深まったので、これからも描いていきたいです。

おもしろ消しゴムって金型の都合で形が決まっていることが多いんですよ。
消しゴムについて観察した上で作品の形を決定することで、金型職人の人が見ても説得力があるくらいになったら嬉しいなと思います。やっぱり私が思いついた形よりも、根拠がある形の方がかっこよくなると思うので。

今年の作品展について

今年の制作展に向けて、現在の計画などあればお聞かせください。

今回の個展はこれまでに自分が確立したスタイルを見せるという意味で、モチーフを分断して開けて、という作品が中心でした。
修了制作はもうすこし実験的なことをやりたいなと思っています。分断より分解、このペアルックのカップルの作品のような、開けてみたら現実とは違う形だったっていう方を考えていきたいです。

《ペアルック》 油性木版、鳥の子紙 2019年

そして後者の方は結構モチーフ選びが重要だと自粛中に気づいて。
家にいる時に昔家族で撮った写真を見て、これ分解できるかなと思ったりしたんですけど、あんまり分解したいって思わなかったんですね。
そこで、自分の思い出とか、尊敬してるものとかは分解しようと思っても気分的にできなくって、自分が尊敬してないものとか、ちょっと茶化したいものを分解したいんだ、ってことに気がつきました。

分解は、対象をニヒルに見るというか、斜に構えて見るような気持ちがないとできないんですね。ペアルックのカップルの作品なんかは共感します。

このおもしろ消しゴム自体も、完成形はかわいくしようと思ってデザインされてるのに、機械で生産する時にコストのために不思議な形にされていますよね。そのかわいくしようという情と、生産時の合理性とが同居している無情さが、ギャップがあって面白いのかなと思います。
だから誰かの失恋のシーンとか、お母さんの作ってくれた料理とかを分解したら面白くなるんかなって思うんですけど、なかなかそういうことをやるのは(気分的に)難しいので、迷ってる感じです。あんまり説教くさくなりたくないっていうのもあって。ぱっとみて楽しいし、結構深く考えても耐えうるというか、そういうものを目指していきたいなと思っています。

そうなんですね。どんな作品が出来上がるかすごく楽しみです。ありがとうございました!

インタビュー: 土屋咲瑛

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