Kyoto City University Of Art annual exhibition 2020

Yasushi Amano 天野 靖史 陶磁器

工芸科漆工専攻4回生の天野靖史(あまの・やすし)さんとの文通です。
今回は、お手紙とその書き起こしだけでなく、実際の作品制作時のスケッチなども提供いただきました。そちらも交えてお送りいたします。作品のもととなった出来事についてのお話と併せてお楽しみください。

では、早速なんですが、これまで(今年に限らず)に、どのような作品を制作されてきたのか?ということについてお聞きしたいです。(コンセプトや技法など…) 陶磁器の専門用語などあれば補足もお願いしたい…!

 お久しぶりです! 専攻も違い、接点はほとんどなかったけど卒業学年になってまたお話しでき嬉しく思います。
 では早速、頂いた手紙の質問にお答えします。僕はこれまで、自身に起こった出来事や体験を引用し、それを土に還元する方法でテーマを決め、制作してきました。
なぜかというと、自身の体験というのは受動的な記憶よりも鮮明なので形に起こしやすいと思ったからです。何より、本人の身に起こった本物の記憶なので 嘘をつかなくてすむのです。

 2回生の制作展では大物を「手びねり」という技法で制作しました。「手びねり」とは、粘土を棒状にして とぐろを巻きながら上に積み上げていく技法です。このときのテーマは断裂した十字靱帯でした。自身の怪我が制作につながるとは皮肉ですが、できあがった作品は僕の分身であるかのような愛着感がありました。

《R.I.P.》 粘土,釉薬 2018年
《R.I.P.》スケッチ

 3回生のとき、大きな出来事がありました。夏休みに青森旅行で行った恐山でのことです。僕は収集癖があって恐山でも小さな石を持ち帰ってしまいました。
京都に帰ってきたその日の晩、人生初の金縛りに遭遇したのです。赤子ほどの重さの生き物が僕の上を四つん這いで歩いていったのを鮮明に覚えています。これは間違いなく石が原因だと感じた私は 大原野神社で厄払いを行ってもらい、石を預けました。

これらのスピリチュアルな体験は、3回生後期の課題「ティーセット」で大きなヒントを与えてくれました。それで完成したのが「厄払いティーセット」と題したものです。厄払いの儀式の中にお茶湯のようなものがあってもよいのでは?という妄想から発展しました。”この世カップ”と”あの世カップ”が除霊の手助けをします。
製作技法は主に電動ろくろを用いた「ろくろ成形」です。回転する装置のアレですね。この世とあの世で急須の形が逆転しているのがポイントです。

《厄払いティーセット》 粘土,釉薬 2019年
《厄払いティーセット》スケッチ

なるほど、その時々の印象的な出来事を作品に落とし込む様子は大規模な日記のようにも思えますね。 十字靱帯断裂がテーマの作品は単体で見ると形自体や、素材の面白さが目をひきますが、スケッチを拝見すると、実際の前十字靱帯の形状から納得のいく形を抽出していく過程が見受けられて、より「器官」っぽく見えてきます。

陶磁器専攻の学校での制作では作る技法(手びねりやティーセットなど)を先に決めて、それにたいしてどんな作品を作っていくか…という順序で制作をすることが多いのでしょうか?

 生徒によって様々です。一般的に順序は、アイデアスケッチで構想を練ったあとに 大まかな重心の確認や立体に立ち上げたときの雰囲気を見るために 小さいスケールのマケットを作ってから本番作業に取り掛かります。しかし中にはマケット作りから始める人や、ぶっつけ本番の人もいます。
 実際に粘土に触れてから発見する形や現象もありますから、どの手順をとるのかは完全に個人の自由ですね。
 僕の場合は軽くスケッチした後に本番へ進むことが多いです。作業過程で生まれた偶発的なテクスチャーは貪欲に取り入れています。

大まかな流れはあるけれど、その過程で何を選択するか、しないかはそれぞれの自由、って感じなんですね。

では、今年の前期の制作について聞いていきたいです。 陶磁器専攻全体についてと、自分の作品・制作それぞれについて。天野さんの作品は実体験が作品と関わっていくのが特徴だと思うのですが、それを踏まえて前期はどのように作品作りに取り組んでいたのか伺いたいです。(風のうわさで家用のろくろを買ったとお聞きしたのでそのあたりもぜひ…)

 自粛期間中は自宅で制作してました。そのため、前期展のチュートリアルでは「土以外のもので制作してもよい」と先生から伝えられたので、パソコン作業がメインの生徒、生活雑貨を使用する生徒もいました。もちろん粘土作業の生徒もいましたが、先生が車で粘土や道具を届けてくれたんです。ありがたい。

 僕は粘土で作業するつもりでしたが、自宅での作業は技法が限られます。(もし、このまま学校が使えなかったら…)と不安に駆られ、ついにメルカリで4万の電動ロクロをポチってしまいました。5月頃は下宿のベランダでロクロをまわしてました。インスタライブでロクロパフォーマンスも…。

 そんなふうに積極的に制作環境を整えていたのですが、展示制作に向けての決定打が出ない日々が続きました。そんなある日、昔から好きなベルナール・ビュフェの作品集を読んでいたとき、自信の心情や精神感を絵画で表現する彼の作品に改めて感銘を受けたのです。

天野さんの実際の作業環境

 下宿から自由に動けない、もどかしさ、生活感を、粘土を板状にしたレリーフに絵画で表現しようとそのとき決めました。
 それにあたり、大学の日本画専攻の友人、先輩と意見交換を深め、他領域(絵画)の制作について考えてみました。物を描くというより、作家の視点、身体性を大切にする共通点や、「焼き」が入ると完成してしまう陶磁器に対して、ファインアートには終わりがなく、最終は自らの意志で止めなければならない違いなどを認識できたのは大きな収穫でした。そこから粘土での制作がスタートしたのですが、同時に岩絵の具を用いた日本画の制作も開始しました。「土以外のもので制作してもよい」と言われましたからね。
 前期展に出した「センチュリーハイツ105号室」は僕の下宿の場所をタイトルにしました。台に置いてあるのは下宿の風景を粘土で表したもので、壁の絵は心情や身体を日本画にしたものです。

《センチュリーハイツ105号室》粘土,釉薬 2020年

陶磁器が示すのは風景で、日本画は心情や身体。2つの違った領域の比較から感じた特徴が互いに混ざりあっているようにも見えますね。 それでは最後になりますが、今年度の作品展に向けて考えていることなどあれば教えてください!

 つい最近の体験で、バイト先(某うどん屋さん)でうどん生地を伸ばしていると背後から視線を感じることがありました。振り返ると小さな子供が僕をジッと見つめていました。最初はかわいく思えていたのですが、その屈託のない視線、何を考えているのか分からない表情に恐怖を感じます。これがきっかけで、卒業制作では「子供の視線」をテーマに取り組んでいます。

子供に可愛さと同時に底知れぬ怖さを感じる感覚は、誰しも覚えのあるものかと思いますが、それをどのように立体、陶磁器に起こしていくのか、すごく楽しみです。 ではお手紙は以上となります。いつも丁寧なお手紙ありがとうございました!

インタビュー: 土屋咲瑛

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